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触れずに物体の温度が測定ができる赤外線放射温度計
病院にて…
以前から気になっていたのですが病院に行くと必ず「体温測らせて下さい」とおでこにレーザーを照射して瞬時に体温がわかる機器に興味津々でした。
私世代では検温といえば脇の下に体温計を挟んで3分以上待つのが当たり前でしたが、痛みも待つ必要もなく検温できるのは魔法の機器のようで不思議です。
情報収集のため通販サイトで調べてみると多くの製品が販売されていることに驚きました。
特に決まった用途もなく必要ではありませんが気付けば購入前提で品定めをしていました。
機種選定
用途別など種類が多いこともあり、非接触温度計についての大まかな知識を得たほうが良いと思い下記の事項を確認しました。
- 病院などで使用されているのは体温測定に特化している。
- 製品によって測定可能域が異なる。
- 正確な測定値を得るための「放射率補正」ができるのとできないのがある。
- 測定場所の環境によっては測定が困難な場合がある。
- 通販サイト上で散見される安い製品は販売元や価格は異なるが全く同じ製品(OEM?)と思われる。
- 使用電源は1.5V単4形×2本あるいは9V型乾電池を使うものがある。
比較検討した結果、厳密な測定を目的としないこともあり、型番「GM320」という製品を購入してみることにしました。
取扱説明書の仕様によると、放射率補正(0.95固定)ができないタイプで測定範囲は-50℃~400℃までとされています。
通販サイトAmazonで「GM320」と検索してみると価格が異なる複数の商品がでてきます。
色違いもあるようですが外観(釦の位置や数など)や仕様の記載が同じものは同一商品だと思います。
価格が安いのは中国からの発送が多いので注文タイミングによっては到着までかなり時間を要するので注意が必要です。(中国の連休、春節時期など)
多少割高でも初期不良時の対応や到着日時が読めないことなどを考慮すれば出荷元がAmazonの商品を選んだ方が無難かと思います。
放射率補正が変更(0.80-0.95)できるタイプ。
高精度の測定を要する場合は測定範囲が-50℃~550℃、放射率可変タイプ(0.1~1.0)がおすすめです。
商品到着~開封
急ぎではなかったので出荷元・販売元が中国の業者に注文してみました。
複数の販売元が出てきますが早期に入手したい場合はAmazon出荷の商品を注文した方がいいと思います。
最近の中国業者は発送手続きが迅速で、今回も入金後すぐに発送手続きが完了した旨のメールが届きました。
発送手続後の輸送は亀レベルの遅さですが送料無料なので仕方ありません。
到着まで2週間以上は覚悟していましたが予想より早い9日目にポストに投函されていました。
いつものビニール袋とは違って紙製(内側が気泡緩衝材)の封筒に入れられており、ハードな旅程だったようで中身が見えるほど破れている箇所がありました…
開封一番気になったことはシールなどでパッケージが封印されていないので簡単に本体が取り出せる状態でした。
よく見ると本来同梱されていたであろう電池が抜かれていることに気付きました。
電池などの輸出入は規制があるので予め抜いたものを海外用に販売しているようです。
改めてAmazonの商品販売ページを確認してみると、電池が入っていない商品パッケージが載せられていましたので偽りはありません。
台紙には英文で特徴、使用シーン、使い方などが記載されていましたので日本語訳を併記してみました。
内容物は本体と英文取扱説明書のみです。
本体外観
本体はプラスティッキーな質感でオモチャのようですが、意外としっかりした作りでトリガーやボタン類の操作感も良好です。
手に馴染む握りやすいグリップにトリガーが付いているので水鉄砲のようです。
各部寸法など
(高×長×幅)は約15㎝×8㎝×4㎝でポケットにも収まるコンパクトサイズです。
本体のみの重量は約100gと軽量です。(電池を含まない)
本体グリップの黒い部位は電池ボックスのカバーで開閉式になっており、1.5V単4形電池を2本入れます。
電池は経済的な1.2V相当の充電式を使用しましたが問題なく使用できました。
電池装填時でも126gしかないので片手で楽々操作できます。
取扱説明書
同梱されていた取扱説明書はすべて英文なので殆ど読めないので部分的に理解できません。
パネル部ボタンは3つしかないので複雑な操作はないと思われ直感的に使用できそうです。
それでも取扱説明書は一応すべて目を通しておくべきだと思ったので日本語版取扱説明書を作成してみました。
Google翻訳から変な日本語の部分を添削しただけなので単語などは適切でない箇所があるかもしれません。
和訳したことにより、より詳しく本機について知ることができました。
ベネテック社 モデル:GM320
赤外線温度計取扱説明書
A.はじめに
この赤外線温度計は物体の表面の温度を測定するために使用されます。
安全かつ迅速に接触することなく、さまざまな高温、危険、またはハードトーチの物体に適用できます。
このユニットは光学、温度センサー信号増幅器、処理回路、LCDディスプレイで構成されています。
光学系は物体から放出された赤外線エネルギーを収集し、センサーに焦点を合わせます。
次に、センサーがエネルギーを電気信号に変換します。
この信号は、信号増幅器と処理回路の後にLCDにデジタル表示されます。B.警告と注意
1.警告:人身事故の原因となる可能性を回避するため以下の点にご注意ください。
1)本機を使用する前に、プラスチック製の筐体をよく確認してください。損傷がある場合は使用しないでください。
2)レーザーを直接目に向けたり反射面から間接的に向けたりしないでください。
3)本機を以下の環境で使用しないでください。
爆発性ガス、蒸気または埃っぽい場所2.注意:ユニットまたはターゲットの損傷を防ぐために、次の状況から保護してください。
1)アーク溶接機、誘導加熱器からのEMF(電磁場)
2)熱衝撃(周囲温度の大幅な変化または急激な変化によって引き起こされます。ユニットが安定するまで30分待ってから使用してください。)
3)高温の物体の上または近くにユニットを置いたままにしないでください。
C.スポットサイズまでの距離
1.測定するときは、スポットサイズまでの距離に注意してください。
ターゲット表面からの距離(D)が大きくなると単位で測定される領域のスポットサイズ(S)が大きくなります。
ユニットのスポットサイズまでの距離は12:1です。
***本機には照準用のレーザーを搭載しています。
【取扱説明書内表面Figure(図1)参照】2.視野:ターゲットがユニットのスポットサイズよりも大きいことを確認してください。
ターゲットが小さいほど測定距離は近くなります。
精度が重要な場合はターゲットがスポットサイズの少なくとも2倍の大きさであることを確認してください。D.放射率
ほとんどの有機材料と塗装または酸化された表面の放射率は0.95です。(ユニットに事前設定されています)
不正確な測定値は光沢のある又は磨かれた金属表面を測定することから生じます。
これを補うためにマスキングテープまたは平らな黒いペンキでターゲット表面を覆います。
テープまたは塗装が下の材料と同じ温度に達したらテープまたは塗装面を測定します。
E.操作
1.ユニットの操作:【取扱説明書裏面記載の図2参照】
1)バッテリーカバーを開き1.5V単4形電池2本を正しく挿入します。
2)トリガーを引いてユニットの電源を入れます。
3)ターゲット面を狙ってトリガーを引くとLCDに温度が表示されます。
このユニットには照準にのみ使用されるレーザーが装備されています。2.ホットスポットの特定:
ホットスポットを見つけるには温度計を対象外に向けてホットスポットが見つかるまで上下にスキャンします。
【取扱説明書裏面記載の図3参照】
F.LCDディスプレイとボタン
1. LCDディスプレイ:【取扱説明書裏面記載の図4参照】
2.ボタン:【取扱説明書裏面記載の図5参照】
G.メンテナンス
1.レンズのクリーニング
きれいな圧縮空気を使用して緩んだ粒子を吹き飛ばします。
湿った綿棒で残りの破片をそっと払い落とします。
綿棒は湿らせたものでも可。2.ケースのクリーニング
湿らせたスポンジまたは布と刺激の少ない中性洗剤でケースを拭きます。
注意
1)プラスチックレンズの洗浄に溶剤を使用しないでください。
2)ユニットを水に浸さないでください。同梱英文取扱説明書から和訳して抜粋
仕様
「GM320」の主な仕様は以下のとおりです。
温度範囲 | -50〜400℃(-58〜752°F) |
精度 | 0℃〜400℃(32°F〜752°F):±1.5°C(+ 2.7°F)または±1.5% -50℃〜0℃(-58°F〜32°F):±3℃(±5°F) どちらか大きい方の解像度 |
解像度 | 0.1℃または0.1°F |
再現性 | 読み取り値の1%または1℃ |
応答時間 | 500mSec、95%応答 |
スペクトル応答 | 5-14 um |
放射率 | 0.95プリセット(固定) |
スポットサイズまでの距離 | 12:1 |
使用温度 | 0〜40℃(32〜104°F) |
動作湿度 | 10〜90%RH結露なし。 30°C(86°F)まで |
保管温度 | -20〜60℃(-4〜140°F) |
電源 | 1.5V 単4形2本使用 |
通常のバッテリー寿命 | 12時間(レーザーオフ) |
放射率?
「放射率」という言葉を初めて耳にしたので簡単に調べてみると
- 全ての物体からは赤外線エネルギーが放射されている
- 物体の表面材質によって放射量は異なる(放射率)
- 放射率はその物体によってほぼ決まっている
- 正しい測定値を得るには「放射率補正」をする必要がある
上記のことから本機「GM320」で測定した温度は、測定対象によって誤差が出ることを知っておくべきだとわかりました。
医療機関で使用されている機器が体温測定に特化している理由も理解できました。
人体の放射率で固定補正されているので他の物体を測定しても正しい結果が得られないということで、逆もまた然りです。
「GM320」の放射率は0.95に固定されているので人肌の放射率が分かれば体温も測定できると思われます。
試しに本機「GM320」でおでこを測定した結果「35.4℃」と表示されました。
放射率から補正すると(0.98/0.95)×35.4=約36.5℃となります。
測定値に約1℃加えた値が凡その体温になるようです。
(※本機は検温用ではありませんので上記記述はあくまで目安です)
主な物体の放射率を調べた結果は以下のとおりです。
放射率表 | |
物体 | 放射率 |
コンクリート | 0.94 |
アスファルト | 0.90~0.98 |
砂 | 0.9 |
レンガ | 0.75~0.95 |
粘土 | 0.85~0.90 |
石膏 | 0.80~0.90 |
ガラス(種類による) | 0.75~0.95 |
木材 | 0.50~0.80 |
紙 | 0.70~0.94 |
プラスチック | 0.60~0.85 |
ゴム(白~黒) | 0.86~0.94 |
塗料(黒艶消し) | 0.95 |
塗料(白色ラッカー) | 0.80~0.95 |
水 | 0.92~0.96 |
人体皮膚 | 0.98 |
物体ごとに放射率が異なるので様々な測定をするのであれば放射率が調節できるタイプが便利だと思います。
高精度の測定を要する場合は測定範囲が-50℃~550℃、放射率可変タイプ(0.1~1.0)がおすすめです。
色々と測定してみた
身辺のものをいろいろ測定してみました。
1気圧の沸点は100℃なのでかなり正確な数値だと思います。
熱い飲料の飲み頃の温度把握に使えそうです。
試しに家にあった温度計で汲み置きの水道水を測定しておきました。
アナログ温度計の読取値は11℃。
本機の測定結果は11.2℃!かなり正確ではないでしょうか。
以前 100形相当のLED電球レビュー でパソコン用の温度センサーを用いて筐体の温度変化を測定をしたことがあり、約78℃前後で推移していることを知りました。
本機でLED電球筐体をスキャンするように測定してみると70~78℃でした。
温度センサーの測定値と大差ないことが確認できました。
原理的には赤外線を遮る物体がない限りどこまでも測定できるらしいので空に向かって測定してみました。
レーザーの方向には雲がありましたので、水滴?氷の粒?の温度でしょうか?-27.2℃と表示されました。
まとめ
価格からして測定精度などはあまり期待していませんでしたが、予想に反して正しい温度が表示されることに驚きました。
もちろん測定する物体によって誤差は生じるのですべて正しい温度が表示されるとは限りません。
しかし物体ごとの放射率が分かれば補正することにより実際の温度に近い結果を得られると思います。
今回レビューした「GM320」は放射率が変更できない0.95固定タイプですが、物体によって誤差が生じることを理解したうえで相対的な温度測定など簡易的な用途であれば十分使えますし値段以上の価値はあると思います。
趣味や料理、室内環境など日常生活の中で温度を知りたいと思うことは度々あります。
非接触なので衛生面や思わぬ火傷事故を未然に防ぐこともできます。
トリガーを引くだけで一瞬で温度がわかる便利さは一度使ったら手放せないアイテムとなるでしょう。